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福岡地方裁判所小倉支部 昭和45年(ワ)1201号 判決 1972年2月24日

原告

東京タクシー株式会社

被告

有限会社柴田運輸

ほか一名

主文

被告らは各自原告に対し金五九万〇、二九一円およびこれに対する被告有限会社柴田運輸については昭和四五年一二月二七日から被告米谷一彦については同月二八日から各完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。

原告その余の請求を棄却する。

訴訟費用はこれを三分し、その一を原告の負担とし、その余を被告らの負担とする。

本判決中原告勝訴部分に限り原告において各被告に対しそれぞれ金二〇万円づゝの担保を供するときはその被告に対し仮に執行することができる。

たゞし被告らにおいてそれぞれ金四〇万円の担保を供するときは右仮執行を免れることができる。

事実

原告訴訟代理人は「被告らは各自原告に対し金八三万八、九八五円およびこれに対する本訴状送達の翌日から完済に至るまで年五分の割合による金員を支払え。訴訟費用は被告らの負担とする。」との判決並びに仮執行の宣言を求め、その請求の原因および主張として、

「一 原告東京タクシー株式会社(以下単に原告会社という)はタクシーによる遊客運送を業とする会社、被告有限会社柴田運輸(以下単に被告会社という)は貨物運送を業とし、被告米谷は右被告会社に雇傭されていた運転手である。

二 原告会社の運転手である訴外杉山幸彦は昭和四三年一二月二四日午前一一時頃原告会社所有の乗用自動車(以下単に原告車という)後部座席に乗客の訴外長田昌勝を乗車させ北九州市小倉区到津遊園地前方向より同区三萩野方向に向い進行し同区真鶴町戸畑バイパス小倉側入口三叉路の交差点に差しかゝつた際折柄三萩野方向より進行し、右戸畑バイパスに右折しようとした被告米谷が運転する被告会社保有の営業用貨物自動車(以下単に被告車という)と衝突した。

三 右事故により原告車は殆んど全部破損し乗客長田昌勝は頭部顔面挫滅創、左前胸部挫傷等の傷害を受け、昭和四三年一二月二四日から翌四四年四月二二日まで入院治療、昭和四四年六月一六日から同年一二月末日まで通院治療を余儀なくされた。

四 右事故は主として被告米谷が左右確認を怠り原告車の動向を注視することなく漫然進行した過失に起因するものであるから直接加害者として、被告会社は被告車の連行供用者であり本件事故は右米谷が被告会社の業務の執行につきなしたものであるから被告会社は自賠法第三条および民法第七一五条の使用者責任により後記損害を賠償すべきである。

五 原告会社の損害

(一) 車両購入費 六二万円(新車価格六五万五、〇〇〇円から事故車下取価格三万五、〇〇〇円を控除したもの)

(二) 料金メーター(取付料共)二万四、〇〇〇円

(三) 運行記録計装着費 六、〇〇〇円

(四) 自動車取得税及び登録諸費用 一万九、九四〇円

(五) 事故車レツカー代 三、〇〇〇円

(六) 運行不能による売上損失(四日分) 六万円

合計金七三万二、九四〇円

六 原告会社の求償債権

本件事故により長田昌勝は次のような損害合計金八八万三、八四四円の損害を蒙つたが自賠保険によりそれぞれ金二八万四、〇二六円計金五六万八、〇五二円を受領したので残額金三一万五、七九二円を原告において長田昌勝に支払い右金員につき求償権を有する。

(1) 入院並びに治療費 一三万三、八四四円

(2) 休業補償並びに慰藉料 七五万円

計 八八万三、八四四円

七 以上のとおり被告米谷および被告会社は原告に対し金一〇四万八、七三二円の支払義務を有するところ本件事故についての訴外杉山と被告米谷との過失の割合は二対八であるから過失相殺をすれば被告米谷および被告会社の支払義務は金八三万八、九八五円となる。

よつて原告会社は被告米谷および被告会社に対し各自金八三万八、九八五円とこれに対する本訴状送達の翌日から右完済に至るまで民法所定の年五分の割合による避延損害金の支払を求める。

八 被告ら主張の過失相殺は争う。」

と述べ、

被告ら訴訟代理人は「原告の各請求は棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決並びに仮執行免脱の宣言を求め、答弁および主張として、

「一 請求原因第一項の事実は認める。

二 第二項の事実は認める。

三 第三項の事実は不知。

四 第四項の事実中、被告米谷の過失は争うが被告会社の自賠法第三条、民法第七一五条の責任は認める。

五 第五項の事実は不知。(一)についての損害は原告車は事故当時新車でなかつたのであるからその計算方法は失当である。

六 第六項の事実中長田昌勝が原告主張のとおりの保険金を受領したことは認めるがその余は不知。

七 第七項は争う。本件事故についての杉山と被告米谷の過失の割合は後記のとおり八対二である。

即ち被告車は別紙添付図面中Mの位置で信号に従い前記バイパスに入るため前方を見たところm点に原告車が進行してくるのを認めたが十分距離があるため右折を始め四五度以上屈折を完了しM'の位置に至つたとき原告車が猛スピード(七〇乃至八〇粁)で進行して来たので危険を感じ急ブレーキをかけて〇・五秒位した時原告車の前部中央が被告車の左前輪に衝突したがその際八噸車の被告車の左側ボンネツトの一部が飛び原告車は右側に五米位飛ぶ程であつた。本件事故現場は交通整理の行われている交差点であつて被告車は前記バイパスに入るため既に右折している場合であるから被告車に優先権があるにも拘らず原告車は制限速度をはるかに超過して進行して来たのであるから過失の割合は前記のとおり八対二とみるのが相当で本件事故は原告車が徐行していたら完全に事故を防止できたことが明らかである。

八 抗弁

被告会社も本件事故により後記損害を蒙つたが前記過失の割合に応じその八割に相当する損害賠償債権を有するので被告会社は昭和四六年二月四日の本件口頭弁論期日において被告会社の右自動債権をもつて原告会社の主張する受動債権と対当額において相殺する旨の意思表示をした。

かゝる交通事故により双方に損害賠償権が発生した場合民法第五〇九条の適用はないと解するのが相当である。

(一) 被告車修理代 一六万八、六五二円

(二) レツカー車代 二万五、〇〇〇円(事故現場から安全地帯まで被告車を索引した代金)

(三) 被告車運搬代 一万五、〇〇〇円(被告車を小倉から宇部まで運搬した代金)

(四) レツカー車代 二万円(被告車をトラツクに積み卸した代金)

(五) 被告車の使用不能による損害 一〇万円(被告車の修理期間一〇日一日につき一万円の損害)

合計金 三二万八、六五二円」

と述べた。〔証拠関係略〕

理由

一  請求原因第一、二項の事実は当事者間に争いがない。

二  〔証拠略〕によれば本件事故現場は北九州市小倉区真鶴町八四番地先の交通整理の行われている交差点であつて被告米谷は被告車を運転して同区三萩野方面から約二〇米前方を先行する大型ダンプカーに追従して右交差点に差しかゝり戸畑方面に右折進行しようとしたが先行車も右交差点において右折進行したので別紙添付図面中Mの位置において右折するに際しあらかじめ進路中央により徐行しつつ対向車両との安全を確認して右折すべく且つ当時は小雨が降り見通しも幾分悪かつたので一層の注意を払うべきところ、先行車は右M位置附近から右折進行したので対向車両はないものと軽信し対向車両の進行状況を十分確認しないまゝ道路中央で一度停止もしないまゝ右先行車に続いて漫然時速二〇粁で右折進行したため到津方向から対向直進して来た杉山幸彦の運転する原告車の前部と被告車の左前部を衝突させたこと、訴外杉山も原告車に乗客訴外長田を乗せ到津方向から三萩野方向に時速約五〇粁で進行し右交差点に差しかゝつたところ進行方向の信号は青信号であつたのでそのまゝ交差点に入つたがその際前記図面M位置である道路中央附近を対向する被告車を認めたのでかゝる場合杉山としても原告車の動行につき十分注視し安全を確認した上で進行すべきに被告車は直進するものと即断しそのまゝ運行したところ原告車の約二〇米前方で被告車は停止することもなく右折を開始したのであわてゝ急ブレーキを踏んだが間に合はず原告車を前記のとおり被告車に衝突させ原告車に乗車していた訴外長田昌勝は頭部顔面挫滅創左前胸部挫傷等の傷害を受けたことが認められ、〔証拠略〕中、右認定に反する部分は措信せず他に右認定を覆すに足る証拠はない。

以上のとおり被告米谷は前記過失により本件事故を惹起したものであるから直接加害者として後記原告の損害を賠償すべく且つ求償権債務を支払うべき義務がある。しかしながら訴外杉山にも前記過失があつてそれが右事故の一因をなしていることも明らかで被告米谷と杉山の過失の割合は七対三とみるのが相当である。

ところで被告会社は本件事故について自賠法第三条および民法第七一五条の責任を認めるので被告会社も後記損害(求償権を含む)を賠償すべき義務がある。

三  原告会社の蒙つた損害について判断する。

(一)  車両購入費〔証拠略〕によれば原告車は本件事故により大破したので原告会社は新車を福岡日産自動車株式会社から金六五万五、〇〇〇円で購入し、原告車を下取価額金三万五〇〇〇円で売却し差額金六二万円を支払つたが右原告車は四ケ月間使用した車であるところから金六二万円をもつて直ちに損害額とするのは相当でなく以上の諸事情を考慮すれば原告会社の新車購入に伴つた損害は少くとも金五五万円をもつて相当と解する。

(二)  〔証拠略〕によれば原告会社は原告車およびその附属品の破損により料金メーターを取替え金二万四、〇〇〇円を出損したことが認められるので右金員の損害を認めることができる。もつとも原告車に附属したメーターも新品であつたことを認めうる証拠はないが右品の耐要期間は相当期間存在することが推認され償却費も高額に至らないものと考えられるので前記金員をもつて損害とみるを相当とする。

(三)  運行記録計装着費〔証拠略〕によれば原告会社は前記記録計装置費として金六、〇〇〇円を要したことが認められるので右損害を認めることができる。

(四)  自動車取得税および登録諸費用〔証拠略〕によれば新車購入に伴い右取得税および登録費用として金一万九、九四〇円を要したことが認められるので右損害を認めることができる。

(五)  事故車レツカー代〔証拠略〕によれば原告会社は原告車を運搬するにつきレツカー代金三、〇〇〇円を要したことが認められるので右損害を認めることができる。

(六)  運行不能による売上損失〔証拠略〕によれば原告会社は本件事故より四日目に新車を購入し、四日間原告車による運行利益をあげることができず当時は暮も迫つた時期でタクシーの運行状況も多い時であるところから原告車による一日の収入を少くとも金一万円とみるのを相当と思料し計四万円の損害を蒙つたものということができる。

四  原告の求償債権について判断する。

本件事故により訴外長田昌勝が負傷したのは前叙説示のとおりで〔証拠略〕によれば長田は当時妻と共に文房具商を営み毎月平均少くとも金七万円の収入を得ていたが本件事故により事故当日から昭和四四年四月二二日まで北九州市立八幡病院に入院し同年一二月まで約四〇数日通院治療を受けたので昭和四五年三月三一日原告との間に示談し原告は治療費等として金一三万三、八四四円、休業補償および慰藉料として金七五万円を支払うことを約し右金員の損害賠償債務は肯認しうるところであり内金二八万四、〇二六円は原告および被告の自賠保険金が支給されたので長田は計金五六万八、〇五二円の弁済を受け残金三一万五、七九二円を原告において長田に弁済したことが認められるので原告は被告に対し後記双方の過失の割合により求償しうるものと解することができる。

五  以上のとおり原告会社は被告米谷および被告会社に対し(一)乃至(六)の損害金六四万二、九四〇円の損害賠償債権があるがこれに前記米谷の過失の割合を斟酌すると右債権額は金四五万〇、〇五八円となる。

しかも原告会社の求償権債権についても原告会社および被告らはいずれも被害者長田に対し共同不法行為者であり不真正連帯債務の関係にあるのでかゝる債務を負担する者の一人が賠償した場合他の者に対して前記認定のとおりの実質的関係に基づいて負担すべき責任の割合に応じて求償権を取得すると解するところ原告会社は訴外長田に対し金三一万五、七九二円を支払つたので被告らに対し各金二二万一、〇五三円の求償権を有すると解することができる。

六  次に被告会社主張の相殺の点について判断するに本件事故のように同一事故に基づく不法行為債権相互の間においては一方の債権だけの弁済を許容し相互間における相殺を許さないとすることは合理的理由を欠くので被告会社主張のとおり民法第五〇九条の適用はないものと解するのが相当である。

そこで被告会社の損害について判断する。

(一)  被告車修理代 〔証拠略〕によれば被告車は本件事故により破損しその修理代に金一六万八、六五二円を要したことが認められる。

(二)  レツカー車代 〔証拠略〕によれば事故現場から安全地帯に被告車を運搬するためのレツカー作業代および被告車をトラツクへ積卸するためのレツカー代として被告会社は金三万五、七五〇円を出損したことが認められ、〔証拠略〕中右部分の記載は措信できない。

(三)  被告車運搬代 〔証拠略〕によれば被告車を事故現場の小倉から被告会社の宇部まで被告会社の車で運搬したが右に要した費用は被告会社の蒙つた損害ということができその見積額金一万五、〇〇〇円は相当と認められるので被告会社の蒙つた損害ということができる。

(四)  使用不能による損害 〔証拠略〕によれば被告会社は運送業を営む会社で被告車は右営業用の八幡トラツクであつたところ本件事故による損傷により修理を余儀なくされその間である一〇日間被告車を使用することができなかつたこと、しかしながら被告車の一日にあげる収益は前記事情から少くとも金五、〇〇〇円と解するのが相当で右一〇日間の損害は金五万円となる。

以上のとおり被告会社の損害は合計金二六万九、四〇二円であるが前記過失の割合において被告会社が原告会社に対し請求しうる損害賠償額は金八万〇、八二〇円である。

被告会社は昭和四六年二月四日の本件口頭弁論期日において本件事故により被告会社が蒙つた損害賠償債権をもつて原告会社の被告らに対する損害賠償債権額を対当額において相殺する旨主張したことは明らかで原告会社は被告らに対し金六七万一、一一一円の受働債権を有し被告会社は原告会社に対し金八万〇八二〇円の自働債権を有しておりいずれも相殺適状になるものと認められるから原告会社の被告会社に対する受働債権は金八万〇、八二〇円の範囲で消滅したものというべく原告会社は被告会社に対し残金五九万〇、二九一円の請求権を有するものである。

しかも被告会社と被告米谷とは原告会社に対し共同不法行為者の関係にあるところ被告会社の前記相殺の効力はその範囲内において原告会社の損害賠償債権を消滅させるものであるから被告米谷についてもその範囲において原告会社の請求権消滅の効果を及ぼしうるものである。

そうであれば被告会社および被告米谷は各自原告会社に対し金五九万〇、二九一円およびこれに対する本件訴状送達の日の翌日であることが記録上明らかな被告会社については昭和四五年一二月二七日被告米谷については同月二八日から各完済に至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金を支払うべき義務がある。

よつて原告会社の本訴請求は右認定の限度において正当と認められるのでこれを認容し訴訟費用の負担については民事訴訟法第八九条、第九二条本文、第九三条第一項本文を、仮執行並びに仮執行免脱の宣言については同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 松尾俊一)

<省略>

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